としなかの数学ブログ

数学について語ります

解3(2)-2016年京都大学特色入試の類題の解答

さて……

問3(2)の解説を始めますが,この問題の解説は(1)以上に長くなります.

読者の方々は覚悟を持って読んでください.

 

 

筆者が特色入試の問題を読んだとき,「任意の初期配置でカードに書かれた整数を1にできる?そんなことありえるの?」が第一声でした.

組合せの問題で任意の状態を考えるとなると,気分が萎えますよね.

(2)は難度Dです.

 

この問題のポイントは,問3を紹介する記事でも書いたように,連続して並ぶk枚を選ぶときに生まれる性質です.

 

解3(1)の解説で用いたx(1),x(2),...,x(n)をここでも使います.

 

まず,有限回の操作をしてもすべてのカードに1と書かれた状態にすることができない初期状態が生じるとき,n,kはどんな値になっているでしょう?

 

恐らく,最初に思いつくのはnkの倍数になっているときでしょう.

これが一番考えやすい条件です.

 

……では,「nkの倍数」という条件を緩和して,nkが1以外の公約数を持つ」となったら,有限回の操作後にすべてのカードに1と書かれた状態にできない初期状態は生じるでしょうか?

 

そこで,次のようにx(1),x(2),...,x(n)をグループ分けします.

G(1),...,G(g)は集合です.

こうしてグループ分けしたときに操作を行うとどうなるでしょう?

 

……実は,操作を一度行うとそれぞれのグループでk/g枚のカードの数が書き換わります.

 

当たり前の事実ですが,これがこの問題を解くカギとなります.

なぜなら,各グループの要素の数は等しく,その上操作を行うと各グループで同数のカードの数が書き換わるという事実がとても重要なのです.

 

極端な例を考えてみましょう.

x(1)=a,x(2)=x(3)=...=x(n)=1で,n=6,k=2としましょう.このとき,g=2です.aはいくつでもいいです.

このとき,一回の操作を行うとそれぞれのグループで2枚のカードの数が書き換わります.

しかし,何度操作を行ってもG(1)G(2)の全要素を同時に1にすることはできません.

実際に実験してみるとわかります.

 

同様に,x(1)=a,x(2)=x(3)=...=x(n)=1,n=n'g,k=k'gで,g≥2のとき何度操作を行ってもG(1)G(2)の全要素を同時に1にすることはできません.

これが解答の指針になります.

 

すなわち,nkが1以外の公約数を持つならば,有限回の操作をしてもカードすべての数字を1にすることができない初期配置が存在すると予想できます.

 

そして,もう1つ別のグループ分けを考えてみましょう.

このときも先ほどと同様に,操作を一度行うとそれぞれのグループでk/g枚のカードの数が書き換わります.

 

このときについても極端な例を考えてみましょう.

x(1)=a,x(2)=x(3)=...=x(n)=1で,k=6,a=4としましょう.すると,g=2です.nはいくつでもいいです.

そして,G(1)の要素の数をiG(2)の要素の数をi'とします.

このとき,一回の操作を行うとそれぞれのグループで6枚のカードの数が書き換わります.

操作をu回行ったとします.

すると,各グループは合計6u枚のカードに操作が行われます.

そして,G(1)のカードをすべて1にするためには合計で1+4si枚のカードに対して操作が行われる必要があります(sは整数).

同様に,G(2)のカードをすべて1にするためには合計で4ti'枚のカードに対して操作が行われる必要があります(tは整数).

これらはどちらも3uに等しいので,1+4si=4ti'となります.

しかし,これを満たすs,tは存在しませんので,このa,kの条件下ではすべてのカードを1にすることはできません.

同様にして,akが互いに素でなければ,有限回の操作をしてもカードすべての数字を1にすることができない初期配置が存在するとよそうできます.

 

以上の2つの場合を見てきましたが,

  • nkが互いに素ではない
  • akが互いに素ではない

とき,すべてのカードを1にすることはできないと予想できます.

 

では逆に,これら以外のときは任意の初期配置ですべてのカードを1にすることができるのでしょうか?

 

……結論から言うとできます.

 

それを示すには次の補題が必要になります.

これは,解3(1)で示した次の補題から示せます.

解3(1)で示した補題は,m,pを互いに素な整数としても成り立ちます.証明は全く同じなので,各自で確認しましょう.

そこで,任意の整数nに対してkmnとなるkが存在するので,n=1として整数lを用いてkm=lp+1と表されます.

よって,任意の互いに素なm,pに対してmk-pl=1を満たすk,lが存在する.

ここで,m=a,p=bとする.

すると,任意の整数tに対してa(k+tb)-b(l+ta)=1が成り立つので,m,nに関する不定方程式am-bn=1は無限個の解を持つ.

したがって,今回示したい補題は示されました.

 

この補題が十分性を示すうえで重要になります.

 

それでは,以下解答.

解答中のGCD(p,q)は,pqの最大公約数を意味します.

 

解答

★★★★

 

こうして問3(2)は解けました.

いやぁ……長かったですね.

 

(3)も同じくらい長いかと思いますが,ぜひ最後までお付き合いください.